Q1受託・制作で案件別利益が見えなくなる主因は、原価のほとんどを占める人件費を案件単位に配賦できていないこと。売上原価の中身が「人の時間」だから、工数を案件に紐づけない限り採算は出ない。Q2受託開発ソフトウェア業の業界平均は、人件費が売上の約49%、労働分配率は約94%(日本政策金融公庫2023年度調査)。付加価値のほぼ全てが人件費に回る構造で、稼働率と配賦精度が採算を直接左右する。Q3受注制作のソフトウェアは収益認識会計基準で「一定の期間にわたり充足される履行義務」に当たり、原価比例法(進捗度=発生原価÷見積総原価)で収益を認識する。案件別に原価を把握できていないと、収益認識そのものが正しく回らない。Q4直し方は、採算単位を案件(プロジェクト)に固定し、工数→労務費→案件配賦の順で組み立てること。SaaSは工数と原価が整っている前提で作られているため、まず業務棚卸しで配賦の土台をつくる。
受託・制作で「案件別の利益」が見えなくなる理由
受託開発や制作の会社で「全社では黒字なのに、どの案件が稼いでいて、どの案件が赤字なのか分からない」という状態は、構造的に起きやすいものです。理由はシンプルで、売上原価のほとんどが人件費=人の時間だからです。
製造業なら、原価の中心は材料費で、どの製品にいくら使ったかが比較的たどりやすい。一方、受託・制作では原価の正体が「メンバーが各案件にどれだけ時間を使ったか」です。人は複数の案件を兼務し、見積・保守・社内会議・教育にも時間を割きます。この稼働時間を案件単位に割り振る仕組み、つまり人件費の配賦がないと、案件別の原価が出ず、案件別の利益も出ません。
だから受託・制作の採算管理は、「どの案件にどれだけ人の時間が乗ったか」を見える化するところから始まります。これは会計ソフトの設定だけでは終わらず、現場の工数の取り方と、採算を見る単位の設計が前提になります。
日本政策金融公庫の調査によると、受託開発ソフトウェア業は売上高総利益率が約73%と高い一方、人件費が売上の約49%を占め、付加価値に対する人件費の割合(労働分配率)は約94%にのぼります。稼いだ付加価値のほとんどが人件費に回る構造で、案件ごとに人の原価を配賦できるかどうかが、そのまま採算の見えやすさを決めます。
業界平均ベンチマーク — 自社の位置を測る
受託・制作の採算を考えるとき、まず手元の数字を業界平均と並べてみると、論点が一気に具体的になります。下表は受託開発ソフトウェア業の業界平均です。自社の値を入れて比べる出発点として使ってください。
業界平均ベンチマーク(受託開発ソフトウェア業)
出典:日本政策金融公庫 小企業の経営指標調査(2023年度調査・情報通信業)/対象571社の平均値。カッコ内は黒字かつ自己資本プラス企業の平均。
| 指標 | 自社値 | 業界平均 | 出典 |
|---|---|---|---|
| 売上高総利益率 | — | 73.1% | 日本政策金融公庫 小企業の経営指標調査(2023年度調査) |
| 人件費対売上高比率 | — | 49.2% | 日本政策金融公庫 小企業の経営指標調査(2023年度調査) |
| 売上高営業利益率 | — | -5.7%(黒字企業 7.8%) | 日本政策金融公庫 小企業の経営指標調査(2023年度調査) |
| 損益分岐点比率 | — | 110.8%(黒字企業 96.2%) | 日本政策金融公庫 小企業の経営指標調査(2023年度調査) |
| 労働分配率(人件費/粗付加価値) | — | 94.2%(黒字企業 79.2%) | 日本政策金融公庫 小企業の経営指標調査(2023年度調査) |
この表で特に見てほしいのは、損益分岐点比率と労働分配率です。業界平均の損益分岐点比率は110.8%で、平均的な企業は損益分岐点をやや超えた水準、つまり採算がぎりぎりか赤字寄りにあることを示します。一方で黒字企業の平均は96.2%まで下がります。両者を分けているのは、売上を一気に増やす力よりも、案件ごとの人件費配賦と稼働率のコントロールです。労働分配率も平均94.2%に対し黒字企業は79.2%と、ここでも人の原価の使い方が採算を左右しています。
全業種で見ても、TKC経営指標(BAST)令和7年版では黒字企業の割合は53.9%にとどまります。受託・制作は人件費比率が高いぶん、配賦と稼働の設計が利益に直結する業種だと言えます。
見るべき採算単位とKPI
受託・制作で採算を見える化するときの基本単位は、案件(プロジェクト)です。多くの場合、ここに以下の単位を重ねて見ると意思決定に使えます。
| 採算単位 | 何を見るか | 使いどころ |
|---|---|---|
| 案件(プロジェクト)別 | 案件ごとの売上・直接人件費・外注費・粗利 | 赤字案件の早期発見、見積精度の改善 |
| 顧客・取引先別 | 継続案件の累積採算、値引き・追加対応の負担 | 取引条件の見直し、優先順位づけ |
| メンバー・チーム別 | 稼働率(請求可能時間/総労働時間)、案件配分 | 過負荷・遊休の是正、増員判断 |
| サービス類型別(請負/準委任/保守) | 契約形態ごとの利益率と回収サイト | 提供メニューの組み替え |
KPIとしては、案件別粗利率、稼働率(チャージャブル比率)、見積と実績の工数差異、回収サイトが中心になります。いずれも「案件に人の時間をひもづける」ことが前提で、ここが受託・制作の採算管理の土台です。
原価・配賦・収益認識の論点
受託・制作の採算を組み立てるとき、避けて通れない3つの会計論点があります。
1. 原価の中身は労務費。受託・制作の売上原価は、外注費を除けばほぼ人件費です。だから原価管理は「工数管理」とほぼ同義になります。各メンバーの稼働時間を案件・工程ごとに記録し、人件費(給与+法定福利など)を工数に応じて案件に配賦します。
2. 間接費の配賦。営業、管理、教育、提案・見積など、特定の案件に直接ひもづかない時間は間接費としてまとめ、一定の基準(直接工数比、人数比など)で各案件へ配賦します。重要なのは、一度決めた配賦基準を頻繁に変えないこと。基準を変えると案件間・期間間の比較ができなくなります。
3. 収益認識。受注制作のソフトウェアは、収益認識会計基準(企業会計基準第29号)で「一定の期間にわたり充足される履行義務」に該当しうるとされ、その場合は進捗度に応じて収益を認識します。実務では進捗度を発生原価ベースで測る原価比例法(進捗度=発生原価÷見積総原価)が一般的です。
原価比例法で収益を認識するということは、毎期の収益の基礎が「案件別の発生原価」になるということです。逆に言えば、案件別に原価を把握できていない会社は、収益認識の土台データそのものが揃っていません。案件別原価管理は、採算の見える化だけでなく、適正な決算のためにも前提になります(収益認識に関する会計基準・ASBJ/EY Japan解説)。
SaaS・ツールだけでは届かない理由
「工数管理ツールやプロジェクト原価管理SaaSを入れれば解決する」と考えがちですが、ツール導入だけで案件別利益が見えるようになるとは限りません。多くのSaaSは、工数の取り方・原価の集計単位・配賦の基準があらかじめ整っている前提で設計されています。
受託・制作の現場は、請負・準委任・保守といった契約形態が混在し、工程の切り方も案件ごとにばらつきます。自社の採算単位と配賦基準を先に設計しないままツールを入れると、テンプレートに業務を無理に合わせることになり、出てくる数字が実態からずれます。順序は「まず業務棚卸しで配賦の土台をつくる→その構造を崩さずにツール運用へ乗せる」です。
AI管理会計ビルダーでの解き方
AI管理会計ビルダーは、この「採算単位の設計→工数と人件費の配賦→運用」という前工程を、AIで圧縮して支援します。まず業務を棚卸しして、案件・顧客・サービス類型のどの単位で採算を見るかを会社固有に設計し、工数から労務費を案件へ配賦する仕組みをデータ基盤から構築します。SaaSのテンプレートに会社を合わせるのではなく、会社の案件構造に合わせて管理会計をつくる。だから、工数や原価が未整備な状態からでも、案件別採算の見える化を始められます。
まずは自社の案件別採算が「どこで見えなくなっているか」を可視化することから。無料診断で、配賦の起点になる論点を洗い出せます。
よくある質問
なぜ受託・制作会社は案件ごとの利益が見えにくいのですか?
案件別の採算を出すには、まず何から手をつけるべきですか?
受注制作ソフトの収益認識は、案件別原価管理とどう関係しますか?
工数管理ツールやSaaSを入れれば、案件別利益は見えるようになりますか?
黒字に見えるのに資金が残らないのはなぜですか?
関連リンク
- ガイド: 業務棚卸しのやり方(管理会計の始め方)
- ガイド: 人件費・共通費の配賦の決め方
- 用語: 限界利益とは / 損益分岐点とは
- 業種別: ECの「チャネル別の正味利益」の出し方
- サービス: AI管理会計ビルダーとは