ガイド

受託の工数原価・案件別人件費配賦と人時生産性の出し方

受託・制作で案件別の人件費を出す手順を、工数の記録設計→直接工数の案件配賦→兼務者・PM・間接工数の配賦→案件別粗利・人時生産性・稼働率の算出まで計算例つきで解説。原価計算基準の個別原価計算と公庫指標を基に、どんぶり脱却の進め方をまとめる。

この記事の目次
  1. このガイドの守備範囲|工数を案件原価に変える「手順」に絞る
  2. ステップ1|工数の取り方を設計する(記録設計)
  3. ステップ2|直接工数を案件へ配賦する
  4. ステップ3|間接工数を案件へ配賦する
  5. ステップ4|案件別粗利・人時生産性・稼働率を出す
  6. 計算例|2案件の案件別粗利を組み立てる
  7. つまずきやすいポイント
  8. Excel・手作業の限界と、その先
  9. AI管理会計ビルダーでの解き方
  10. よくある質問
  11. 関連リンク
  12. 出典
この記事の要点AI / AEO 最適化
  • Q1受託の原価は人の工数。案件別人件費を出す出発点は工数の記録設計で、誰が・どの案件に・何時間使ったかを取れる形を先につくる。これがないと配賦の土台が立たない。
  • Q2直接工数(特定案件のための作業時間)は、各人の時間あたり人件費(チャージレート)を掛けて案件へ直課する。これが原価計算基準でいう個別原価計算の直接費にあたる。
  • Q3PM・兼務者・営業や管理の間接工数は特定案件に直課できないため、直接工数比など一定の基準で各案件へ配賦する。配賦後に案件別の総原価がそろう。
  • Q4案件別粗利=案件売上−(直接労務費+配賦間接費+外注費)。あわせて人時生産性(粗利÷総労働時間)と稼働率(請求可能時間÷総労働時間)を出すと、どんぶりを脱却できる。

このガイドの守備範囲|工数を案件原価に変える「手順」に絞る

受託・制作で「全社は黒字なのに、どの案件が稼いでいるか分からない」になる構造的な理由と、業界平均ベンチマーク(受託開発ソフトウェア業は人件費が売上の約49%、労働分配率約94%)は受託・制作の案件別利益が見えないを直すで解説しています。事業別・案件別に損益を組む一般的な進め方(採算単位→直接費→共通費→段階利益)は事業別PLの作り方に、人時生産性そのものの定義や業種別の目安は人時生産性とはにまとめています。

このガイドは、それらを前提に、受託固有の「工数を取り、案件別に人件費を配賦し、人時生産性・稼働率まで出す」手順だけを具体化します。記録設計・配賦の割り方・計算例・つまずき所が中心です。

ステップ1|工数の取り方を設計する(記録設計)

受託の原価はほぼ人件費=人の時間です。だから案件別原価は、「誰が・どの案件に・何時間使ったか」を記録できる形をつくるところから始まります。ここを設計せずに原価計算へ進むと、後から時間を割り当てられず必ず止まります。

記録設計の要点は3つです。

  1. 案件コードと工程を決める — 各案件にコードを振り、必要な案件だけ工程(設計・開発・テスト・保守など)に分けます。最初から全案件を細かく割らず、案件×日の粒度から始めます。
  2. 直接と間接を分けて記録する — 特定案件のための作業時間(直接工数)と、営業・社内会議・教育・提案など案件にひもづかない時間(間接工数)を、最初から別枠で記録します。この区分が後段の配賦の土台です。
  3. 総労働時間も取る — 直接・間接を合わせた一人ひとりの総労働時間を押さえます。これがチャージレートの分母になり、稼働率・人時生産性の分母にもなります。

日本政策金融公庫の調査では、受託開発ソフトウェア業は人件費が売上の約49%を占め、付加価値に対する人件費の割合(労働分配率)は約94%にのぼります。原価の中身が人の時間である以上、工数の記録設計が案件別採算のすべての出発点になります。

出典原価計算基準(企業会計審議会・個別原価計算)

ステップ2|直接工数を案件へ配賦する

直接工数は、各人の時間あたり人件費(チャージレート)を掛けて、案件へ直課します。これが原価計算基準でいう個別原価計算の直接費にあたります。

チャージレート(円/時)= 月間人件費(給与+賞与月割+法定福利費)÷ 月間総労働時間

案件のその人の直接労務費 = チャージレート × その案件への投入直接工数

たとえば月間人件費60万円・総労働時間160時間のメンバーなら、チャージレートは3,750円。このメンバーがX案件に40時間使ったなら、X案件へのそのメンバーの直接労務費は15万円です。賞与や法定福利費を含めないと原価が過小に出るため、会社が負担する人件費の総額をベースにします。各案件に投入された全メンバーの直接労務費を足し上げると、案件の直接労務費がそろいます。

ステップ3|間接工数を案件へ配賦する

PM・兼務者・営業・管理など、特定案件に直接ひもづかない間接工数は、一定の基準で各案件へ配賦します。原価計算基準も、間接費は直接作業時間などの配賦基準で各対象へ割り当てると整理しています。

配賦する間接費 よく使う配賦基準 選ぶ理由
PM・統括の工数(複数案件担当) 担当案件の直接工数比・売上比 関与度に最も近い
提案・見積など案件前の工数 受注した案件の直接工数比 受注案件が成果の受け皿
営業・経理・人事など全社間接部門費 全案件の直接工数比・人数比 規模に応じた負担として説明しやすい
教育・社内開発の時間 全案件の直接工数比 全体で負担する性質

配賦の例を示します。当月の全社間接費が300万円、A案件の直接工数が400時間・B案件が200時間なら、直接工数比2対1で配賦し、A案件に200万円・B案件に100万円を乗せます。配賦の一般原則と順番は配賦の決め方を参照してください。基準は一度決めたら継続し、案件構成が大きく変わったときだけ見直します。

ステップ4|案件別粗利・人時生産性・稼働率を出す

直接労務費と配賦間接費がそろうと、案件別の総原価が出ます。ここに外注費を加えれば、案件別粗利が計算できます。

案件別粗利 = 案件売上 −(直接労務費 + 配賦された間接費 + 外注費)

同じ工数データから、時間の効率を測る2指標も出せます。

指標 何を見るか
人時生産性(円/時) 粗利(付加価値) ÷ 総労働時間 1時間あたりいくら稼いだか
稼働率(%) 請求可能な直接工数 ÷ 総労働時間 時間のうちどれだけが売上に向いたか

案件別粗利で「どの案件が儲かったか」を、人時生産性と稼働率で「時間がどれだけ利益に変わったか」を見ると、赤字案件の発見と、遊休・過負荷の是正の両方に手が打てます。人時生産性の業種別の目安は人時生産性とはを参照してください。

計算例|2案件の案件別粗利を組み立てる

考え方を具体化します。当月、メンバーの直接工数と外注費が次の通りで、全社間接費300万円を直接工数比で配賦するとします。

項目 A案件 B案件 合計
案件売上 600万円 300万円 900万円
直接工数 400時間 200時間 600時間
直接労務費(@4,000円) 160万円 80万円 240万円
外注費 80万円 60万円 140万円
配賦間接費(直接工数比2:1) 200万円 100万円 300万円
案件別総原価 440万円 240万円 680万円
案件別粗利 160万円 60万円 220万円
案件別粗利率 26.7% 20.0% 24.4%

この例では、A・B両案件とも粗利はプラスですが、粗利率はA案件26.7%に対しB案件は20.0%と差が出ています。直接工数あたりで見ると、A案件は400時間で粗利160万円=1時間あたり4,000円、B案件は200時間で粗利60万円=1時間あたり3,000円で、同じ黒字でも時間あたりの稼ぎはA案件が上だと分かります。売上の大小だけでなく、投入した時間に対してどれだけ粗利を生んだかで案件を評価できるのが、工数原価を組む狙いです。

つまずきやすいポイント

  • 工数記録の設計を後回しにする — 「誰が・どの案件に・何時間」を取れる形を先に決めないと、後から原価を割り当てられず止まります。記録設計が最初の一歩です。
  • チャージレートに賞与・法定福利費を含めない — 給与だけで時間単価を出すと原価が過小になり、案件が実態より黒字に見えます。会社負担の人件費総額をベースにします。
  • 間接工数を案件に乗せ忘れる — 直接工数だけで原価を組むと、PM・営業・管理の時間が消えて全案件が過大に黒字化します。間接工数は必ず配賦します。
  • 稼働率を100%前提で見積もる — 直接工数に向く時間は総労働時間より少ないのが普通です。実績の稼働率で見積もらないと、原価も納期もずれます。
  • 配賦基準を毎月変える — 直接工数比と売上比を行き来すると案件間・期間間の比較ができません。一度決めて継続します。

Excel・手作業の限界と、その先

工数記録と案件別原価の試算は、最初はExcelで十分です。ただし、毎月の工数表をチャージレートで原価に換算し、間接工数を案件へ配賦し、人時生産性・稼働率まで出す作業を手で繰り返すと、属人化・更新遅延・履歴が追えないという弱点が出て、案件数とメンバーが増えるほど継続が苦しくなります。とくに配賦基準とチャージレートの算定ルールが担当者の頭の中にあると、その人が抜けた瞬間に再現できなくなります。

どの業務がどの案件・工程に紐づくかは、業務棚卸しで工数の発生源と案件の対応を洗い出すと、記録設計と配賦の精度が上がります。順序は「棚卸しで工数の構造を把握する→記録設計と配賦基準を決める→その基準を崩さずに運用へ乗せる」です。

AI管理会計ビルダーでの解き方

AI管理会計ビルダーは、この「工数の記録設計→直接工数の案件配賦→間接工数の配賦→案件別粗利・人時生産性・稼働率」の前工程を、会社固有の形でつくります。業務棚卸しで工数の発生源と案件の紐づけを洗い出し、チャージレートの算定と間接工数の配賦基準を会社の案件構造に合わせて設計したうえで、工数管理ツールのテンプレートに縛られない案件別採算をデータ基盤から継続的に出せる形にします。工数や原価が未整備な状態からでも、どんぶり勘定からの脱却を始められます。

工数原価と人時生産性を案件別に出せると、赤字案件と稼働の遊休が早期に見えます。無料診断で、案件別原価の配賦の起点を洗い出せます。

よくある質問

工数はどう記録すれば案件別原価が出せますか?
「誰が・どの案件に・何時間使ったか」を、案件コードと工程の単位で記録できる形にするのが出発点です。1日単位で案件ごとの時間を入れる工数表が基本で、案件に直接ひもづかない営業・社内会議・教育などは『間接』として別枠で記録します。粒度は細かすぎると続かないため、まず案件×日の単位から始め、必要な案件だけ工程を分けるのが実務的です。記録のルールを先に決めないまま原価計算をしようとすると、後から時間を割り当てられず止まります。工数記録は案件別原価の土台です。
時間あたり人件費(チャージレート)はどう決めますか?
各メンバーの月間人件費(給与+賞与の月割+法定福利費など)を、その人の月間総労働時間で割って、1時間あたりの原価を出します。たとえば月の人件費が60万円で総労働時間が160時間なら、チャージレートは3,750円です。この時間単価に、案件に投入した直接工数を掛けると、その案件のその人の直接労務費が出ます。賞与や法定福利費を含めないと原価が過小になるため、給与だけでなく会社が負担する人件費の総額をベースにするのが正確です。
PMや兼務者、営業・管理の間接工数はどう案件に割りますか?
特定案件に直接ひもづかない間接工数は、一定の配賦基準で各案件へ配賦します。よく使う基準は各案件の直接工数比(直接作業時間の割合)で、原価計算基準でも間接費は直接作業時間などの基準で配賦すると整理されています。複数案件を統括するPMの工数は、担当案件の直接工数比や売上比で配分します。営業・経理・人事といった全社の間接部門費は、全案件の直接工数比などでまとめて配賦します。基準は一度決めたら継続し、案件構成が大きく変わったときだけ見直します。
人時生産性と稼働率は案件別原価とどう関係しますか?
どちらも工数記録から同じデータで出せる指標です。人時生産性は粗利(付加価値)を総労働時間で割った『1時間あたりにいくら稼いだか』、稼働率は請求可能な直接工数を総労働時間で割った『時間のうちどれだけが売上に向いたか』です。案件別原価を組むために工数を記録すると、その副産物として人時生産性と稼働率が計算できるようになります。案件別粗利で『どの案件が儲かったか』を、人時生産性と稼働率で『時間がどれだけ利益に変わったか』を見ると、改善の打ち手が具体化します。人時生産性の定義や目安は用語解説にまとめています。
工数管理ツールを入れれば案件別利益は見えますか?
ツールは有効ですが、それだけでは解決しないことが多いです。多くの工数管理ツールは、工数の取り方・チャージレートの算定・間接工数の配賦基準があらかじめ整っている前提で設計されています。受託の現場は請負・準委任・保守と契約形態が混在し、工程の切り方も案件ごとにばらつくため、自社の案件単位と配賦基準を先に設計しないと、ツールに業務を無理に合わせることになり、出てくる数字が実態とずれます。まず工数記録の設計と配賦基準を固めてから運用に乗せる順序が有効です。