Q1事業別PL(セグメント別損益)の出発点は採算単位の切り出し。事業・部門・店舗・案件など「何別に採算を見るか」を先に決め、そこに売上と費用を紐づける。Q2費用は直接費(その事業だけに紐づく)と共通費(複数事業にまたがる)に分け、直接費はそのまま、共通費だけを配賦する。全額を無理に配賦しない。Q3損益は段階利益で組み立てる。限界利益→貢献利益→事業別営業利益の順に、上の段ほど事業の実力、下の段ほど配賦の影響を含む数字になる。Q4全社が黒字でもどの事業が稼いでいるか分からない状態は、採算単位と費用の紐づけが未設計なことが多い。事業別PLはその設計を形にする作業。
事業別PLとは — 全社の損益を「どの事業が稼いでいるか」で組み替える
事業別PL(事業別損益計算書、セグメント別損益)とは、全社の損益計算書を「事業ごと・部門ごと・店舗ごと・案件ごと」といった採算単位で組み替え、どの事業が利益を生み、どの事業がコストを使っているかを見える形にしたものです。上場企業が有価証券報告書で開示するセグメント情報を、中小企業が自社の意思決定のために、見たい単位で自由に作るイメージです。
多角化した会社で「全社は黒字なのに、どの事業が稼いでいるのか分からない」という状態に陥るのは、多くの場合、採算単位の設計と費用の紐づけが未設計だからです。全社のPLは正しくても、その内訳を事業別に割れていないと、伸ばすべき事業も、見直すべき事業も特定できません。事業別PLは、その内訳を意思決定に使える形にする作業です。
管理会計には法律上の決まった様式がありません。だからこそ「何別に採算を見るか」という採算単位の設計が出発点になります。ここを誤ると、後から出てくる数字が実態と噛み合いません。
中小企業白書2025では、ガバナンス体制を整えた企業ほど「部門・製品別のコスト管理」に取り組む割合が高いと報告されています。事業別・部門別に採算を見える化する体制づくりは、成長やリスク管理の前提になりつつあります。
事業別PLの作り方(5ステップ)
事業別PLは、次の順序で段階的に組み立てます。いきなり精緻な配賦から入らず、紐づけやすいところから固めるのが定石です。
ステップ1|採算単位を切り出す
最初に「何別に採算を見るか」を決めます。事業別・部門別・店舗別・案件別・チャネル別のうち、自社が「どこで稼いでいるかを知りたい単位」を選びます。多角化企業なら事業単位、多店舗なら店舗単位、受託型なら案件単位が起点です。どの業務がどの採算単位に属するかは、業務棚卸しで洗い出します。
ステップ2|売上を採算単位に紐づける
各採算単位の売上を割り当てます。売上はもっとも紐づけやすい項目です。1つの取引が複数事業にまたがる場合は、事前に按分のルールを決めておきます。
ステップ3|直接費を採算単位に紐づける
費用を、その事業だけに紐づく直接費と、複数事業にまたがる共通費に分けます。直接費(その事業の材料費・外注費・専任者の人件費など)は、配賦せずそのまま各事業に計上します。ここまでで、各事業の限界利益・貢献利益まで見えてきます。
ステップ4|共通費を配賦する
複数事業で共有する間接費・本社費は、実態に近い基準で各事業に配賦します。配賦基準の選び方と順番は配賦の決め方で詳しく解説しています。原価計算基準も、間接費は一定の配賦基準で各対象に割り当てると定めています。ここで配賦後の事業別営業利益が出ます。
ステップ5|段階利益の形にまとめる
各事業の損益を、限界利益→貢献利益→事業別営業利益という段階利益の形に並べます。上の段ほど事業そのものの実力、下の段ほど配賦の影響を含んだ数字になります。段階で見ることで、「事業の実力」と「配賦のさじ加減」を切り分けて読めます。
段階利益の組み立て方|どの利益で何を判断するか
事業別PLの肝は、利益を一段ではなく段階で見ることです。それぞれの段がどこまでの費用を引いた数字かを揃えると、誤った撤退・拡大の判断を防げます。
| 段階利益 | 計算 | 何を表すか |
|---|---|---|
| 売上高 | — | 事業の規模 |
| 限界利益 | 売上高 − 変動費 | 売上が1単位増えたときに残る利益。事業の素の収益力 |
| 貢献利益 | 限界利益 − その事業固有の固定費 | 共通費を負担する前の、事業単独の利益 |
| 事業別営業利益 | 貢献利益 − 配賦された共通費 | 共通費まで負担した後の最終的な事業損益 |
判断の使い分けはシンプルです。事業の実力は限界利益・貢献利益で見て、撤退・存続のような重い判断ほど上の段(限界利益・貢献利益)を重視する。配賦後の事業別営業利益は、配賦基準しだいで動くため、参考情報として読みます。限界利益・貢献利益の考え方は変動費・限界利益の出し方で計算手順までまとめています。
計算例|2事業の事業別PLを組み立てる
考え方を具体化します。A事業(売上6,000万円)とB事業(売上2,000万円)があり、共通費(本社費)が月800万円かかっているとします。直接費を紐づけた後、共通費を売上高比(A75%・B25%)で配賦すると、次のようになります。
| 項目 | A事業 | B事業 | 合計 |
|---|---|---|---|
| 売上高 | 6,000万円 | 2,000万円 | 8,000万円 |
| 変動費 | 3,600万円 | 1,400万円 | 5,000万円 |
| 限界利益 | 2,400万円 | 600万円 | 3,000万円 |
| 事業固有の固定費 | 1,200万円 | 500万円 | 1,700万円 |
| 貢献利益 | 1,200万円 | 100万円 | 1,300万円 |
| 配賦された共通費 | 600万円 | 200万円 | 800万円 |
| 事業別営業利益 | 600万円 | △100万円 | 500万円 |
ここで読み取りたいのは、B事業の事業別営業利益は赤字(△100万円)に見えるものの、貢献利益は100万円のプラスだという点です。B事業は共通費の一部を回収できており、いますぐ撤退すると、その回収分(と按分されていた共通費800万円のうち減らせない部分)をA事業がかぶることになります。配賦後の利益だけで撤退を決めず、貢献利益と「共通費がどれだけ減らせるか」を併せて読むのが、事業別PLの正しい使い方です。
つまずきやすいポイント
- 採算単位を決めずに数字を分け始める — 紐づけ先が定まらず作業が止まります。先に「何別に見たいか」を決め、それに合わせて科目とセグメントを設計します。
- 共通費を全額無理に配賦する — 配賦基準しだいで事業の利益が黒字にも赤字にも見えます。配賦前の限界利益・貢献利益で実力を見て、配賦後は参考に。
- 配賦後の営業利益だけで撤退を判断する — 貢献利益がプラスの事業は共通費を回収しています。撤退判断は上の段の利益で行います。
- 配賦基準を頻繁に変える — 基準が動くと期間比較ができません。一度決めたら継続し、事業構造が大きく変わったときだけ見直します。
Excel・手作業の限界と、その先
事業別PLの最初の一歩はExcelで十分です。直接費の紐づけも、共通費の配賦試算もExcelから始められます。ただしExcel運用は、属人化(担当者しか触れない)・更新遅延(締めが遅い)・履歴が追えない(誰がいつ何を変えたか分からない)という弱点を抱えやすく、毎月の事業別PLを継続して回す段階で限界が出ます。とくに採算単位の定義や配賦基準が担当者の頭の中にあると、その人が抜けた瞬間に再現できなくなります。
ここで多くの会社が経営管理SaaSの導入を考えますが、SaaSの多くはデータと業務が整っている前提で作られています。採算単位も費用の紐づけも未設計のまま導入すると、テンプレートに自社の事業を無理に合わせることになり、かえって実態から離れた数字が出ます。順序は「棚卸しで採算単位と紐づけを固める→配賦基準を決める→その構造を崩さずに運用へ乗せる」です。
AI管理会計ビルダーでの解き方
AI管理会計ビルダーは、この「採算単位の設計→費用の紐づけ→配賦→段階利益の事業別PL」という流れを、会社固有の形でつくります。業務棚卸しで採算単位と費用の紐づけを洗い出し、直接費と共通費を分け、配賦基準を会社の実態に合わせて設計したうえで、SaaSのテンプレートに縛られない事業別PLをデータ基盤から継続的に回せる形にします。会計が未整備な状態からでも、まず構造を固めるところから始められます。
事業別PLは、採算単位の設計と費用の紐づけが土台です。無料診断で、自社の「どの事業が稼いでいるか見えない度合い」を可視化できます。
よくある質問
事業別PLとセグメント別損益は同じものですか?
事業別PLは何から作り始めればよいですか?
共通費はすべて各事業に配賦すべきですか?
赤字に見える事業は撤退すべきですか?
Excelで事業別PLを作ってもよいですか?
関連リンク
- ガイド: 業務棚卸しのやり方 / 人件費・共通費の配賦の決め方 / 変動費・限界利益の出し方
- 用語: 部門別損益とは / 貢献利益とは / 限界利益とは / 配賦とは
- 業種別: 受託・制作の「案件別利益が見えない」を直す / 製造(中小)の「製品別原価が見えない」を直す / 飲食・多店舗の「店舗別の採算」を直す / SaaS・サブスクの「顧客別・期間別の採算」を直す
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