Q1工事の着地利益は、受注時の実行予算と進行中の発生原価を工事台帳で案件別に突き合わせ、実行予算差異と進捗度から予測する。実行予算がないと、原価が予算を超えても完成まで気づけない。Q2実行予算は、請負金額から逆算した目標利益を確保するため、材料費・労務費・外注費・経費を費目別に見積もる原価の設計図。見積(対顧客)とは別に、原価管理の基準として案件ごとに組む。Q3実行予算差異は、費目ごとに「実際発生原価−実行予算」で算出する。差異が出た費目と工種を切り分けると、原価超過の発生場所と原因が特定でき、残工事の見直しに使える。Q4着地利益は、進捗度(発生原価÷見積総原価)に応じて収益を認識する工事進行基準の考え方を使い、見積総原価を最新の実績で更新しながら予測する。見積総原価が甘いと進捗も着地予測もずれる。
このガイドの位置づけ — 着地利益を「予測する手順」
建設・工事会社で着地利益が読めなくなる構造的な理由や、業界平均との比較は建設・工事会社の「工事の着地利益が読めない」を直すにまとめています。工事進行基準そのものの定義・計算式・収益認識基準での扱いは工事進行基準とはにあります。このガイドはその先、実行予算を作り、工事原価差異を出し、着地利益を予測する手順に絞ります。算式と計算例で、つまずき所まで具体化します。
工事の採算管理がむずかしいのは、受注時の実行予算と、進行中の発生原価・出来高が案件ごとに結びつかないからです。直接工事費(材料費・労務費・外注費・経費)は工事に紐づきますが、現場管理費などの間接工事費は配賦が必要で、しかも完成を待たないと利益が見えない構造があります。これを進行中に読むのが、実行予算と進捗度の管理です。
着地利益を予測する4ステップ
着地利益は、次の順で組み立てます。受注時の予算づくりから始め、進行中に発生原価と突き合わせ、進捗度で着地を読む流れです。
ステップ1|実行予算を作る
受注が決まったら、その工事の実行予算を組みます。実行予算は対顧客の見積とは別物で、目標利益を確保するための原価の設計図です。請負金額から目標利益を引いて使える原価の総枠を出し、それを材料費・労務費・外注費・経費の費目別に、工種・工程ごとに割り付けます。この費目別の数字が、以降の発生原価と比べる物差しになります。
ステップ2|工事台帳で出来高と発生原価を案件別に把握する
工事の進行に合わせ、工事台帳に発生原価を費目別・工種別で案件に積み上げます。あわせて外注の出来高(どこまで完了したか)を記録します。ここで大事なのは、原価を発生のつど案件に紐づけることです。会社全体の原価集計では案件別の採算は出せません。間接工事費は直接工事費比などの基準で各工事に配賦します(配賦の進め方は人件費・共通費の配賦の決め方を参照)。
ステップ3|実行予算差異を算出する
各費目について「実際発生原価−実行予算」で実行予算差異を出します。プラスは予算超過、マイナスは予算内です。費目別・工種別に分けて見ると、どこで原価が膨らんでいるかが特定でき、残りの工事の発注や工程を見直せます。完成後ではなく進行中に毎月見ることで、赤字工事を着工後すぐに見極められます。
ステップ4|進捗度で着地利益を予測する
進捗度(発生原価÷見積総原価)を出し、見積総原価を最新の実績で更新しながら、完成時の総原価見込みと請負金額の差から着地利益を予測します。発生原価が膨らんで見積総原価が当初を超えれば、着地利益はその分目減りします。完成を待たず、各時点の見積総原価で着地を読み直すのがこのステップの肝です。
計算手順を算式で押さえる
各ステップを算式にすると、工事台帳上でそのまま運用できます。
| 段階 | 算式 |
|---|---|
| 実行予算の原価総枠 | 請負金額 − 目標利益 |
| 実行予算差異(費目別) | 実際発生原価 − その費目の実行予算 |
| 進捗度(原価比例法) | 発生原価 ÷ 見積総原価 |
| 着地利益の予測 | 請負金額 − 見積総原価(最新) |
| 当期計上売上(進行基準) | 請負金額 × 進捗度 − 前期までの計上売上 |
着地利益の予測で動く変数は見積総原価です。発生原価が予算を超えた費目があれば、その分を見積総原価に反映して更新します。進捗度と着地利益は、この更新を毎月回すことで実態に近づきます。工事進行基準での売上計上の詳しい例は工事進行基準とはを参照してください。
計算例|進行中の工事で着地利益を読み直す
考え方を具体化します。請負金額1億円・当初の見積総原価8,000万円(目標利益2,000万円)の工事があるとします。期末時点で発生原価は5,000万円。費目別の実行予算差異を見ると、外注費が予算超過で、残工事を踏まえ見積総原価を8,400万円に更新したとします。
| 項目 | 当初 | 進行中(更新後) |
|---|---|---|
| 請負金額 | 10,000万円 | 10,000万円 |
| 見積総原価 | 8,000万円 | 8,400万円 |
| 発生原価(期末まで) | — | 5,000万円 |
| 進捗度(発生原価÷見積総原価) | — | 59.5% |
| 着地利益の予測(請負−見積総原価) | 2,000万円 | 1,600万円 |
| 当期計上売上(請負×進捗度) | — | 5,950万円 |
ここで読み取りたいのは、外注費の予算超過を見積総原価に反映した結果、着地利益が2,000万円から1,600万円へ400万円目減りした点です。実行予算差異を進行中に見て見積総原価を更新すれば、完成を待たずに着地利益の悪化をその期に把握できる。これが実行予算と進捗度を使う意味です。逆に見積総原価を当初のまま放置すると、進捗度も着地利益も甘いままで、完成時に初めて利益不足に気づくことになります。
つまずきやすいポイント
- 実行予算を作らない/見積で代用する — 対顧客の見積は原価の物差しになりません。費目別の実行予算がないと、原価超過に気づく基準そのものがありません。
- 発生原価を案件に紐づけない — 全社集計では案件別の採算も進捗度も出せません。原価は発生のつど工事と費目に紐づけます。
- 見積総原価を更新しない — 進捗度と着地利益は見積総原価で決まります。差異が出たら最新の実績で更新しないと、着地予測が甘くなります。
- 差異を総額でしか見ない — 費目別・工種別に分けないと、原価超過の発生場所と原因が特定できず、残工事の手の打ちようがありません。
- 間接工事費の配賦基準を頻繁に変える — 基準が動くと工事間・期間間で比較できません。一度決めたら継続します。
Excel・手作業の限界と、その先
実行予算と工事原価管理の最初の一歩はExcelで十分です。費目別の予算づくりも、発生原価との突き合わせもExcelから始められます。ただしExcel運用は、属人化・更新遅延・案件横断の集計漏れという弱点を抱えやすく、複数の工事でこれを毎月回す段階で限界が出ます。とくに実行予算の費目構成や原価の紐づけルール、見積総原価の更新が担当者の頭の中にあると、その人が抜けた瞬間に再現できなくなります。
ここで多くの会社が建設業向けの会計ソフトを考えますが、その多くは工事台帳・実行予算の費目構成・間接工事費の配賦基準が整っている前提で作られています。実行予算も配賦も未設計のまま入れると、テンプレートに自社の工事を無理に合わせることになり、かえって実態から離れた数字が出ます。順序は「実行予算と原価の紐づけ・配賦のルールを固める→その構造を崩さずに運用へ乗せる」です。
AI管理会計ビルダーでの解き方
AI管理会計ビルダーは、この「実行予算→発生原価の集計→実行予算差異→進捗度での着地予測」という流れを、会社固有の形でつくります。業務棚卸しで工事案件・工種・元請のどの単位で採算を見るかを設計し、工事台帳・実行予算・実際原価を案件単位でつなぎ、間接工事費の配賦と見積総原価の更新をデータ基盤から継続的に回せる形にします。実行予算や原価データが未整備な状態からでも、工事別の着地利益予測を始められます。
着地利益の予測は、実行予算と工事台帳の設計が土台です。無料診断で、自社の工事別採算が「どこで見えなくなっているか」を可視化できます。
よくある質問
実行予算は何のために、どう作りますか?
工事台帳では何を案件別に記録しますか?
実行予算差異はどう計算し、どう使いますか?
着地利益はどう予測しますか?
Excelで実行予算と工事原価管理をしてもよいですか?
関連リンク
- 業種の全体像: 建設・工事会社の「工事の着地利益が読めない」を直す
- 用語: 工事進行基準とは / 損益分岐点とは / 原価分解とは
- ガイド: 人件費・共通費の配賦の決め方 / 事業別PLの作り方
- 業種別: 受託・制作の「案件別利益が見えない」を直す
- サービス: AI管理会計ビルダーとは