ガイド

製造間接費の配賦のやり方

受注生産は個別原価計算、見込生産は総合原価計算という選び方から、製造間接費の配賦ドライバ(直接作業時間・機械時間・操業度)の選定、配賦率の計算、製品別原価の算出までを手順で解説。原価計算基準に沿った配賦の実務手順と計算例、つまずき所を具体化。

この記事の目次
  1. このガイドの範囲 — 製造原価に固有の「配賦手順」に絞る
  2. ステップ1|生産形態で原価計算の方式を選ぶ
  3. ステップ2|製造間接費を集計し、配賦ドライバを選ぶ
  4. ステップ3|配賦率を計算する
  5. ステップ4|製品ごとに配賦して製品別原価を出す
  6. 計算例|製造間接費を2製品に配賦する
  7. つまずきやすいポイント
  8. Excel・手作業の限界と、その先
  9. AI管理会計ビルダーでの解き方
  10. よくある質問
  11. 関連リンク
  12. 出典
この記事の要点AI / AEO 最適化
  • Q1原価計算の方式は生産形態で選ぶ。受注生産(種類の異なる製品を個別に作る)は個別原価計算、見込生産(同じ製品を連続して作る)は総合原価計算が基本。
  • Q2製造間接費は製品に直接ひもづかないため、配賦ドライバ(配賦基準)で各製品に割り当てる。労働集約的な工程は直接作業時間、機械が主役の工程は機械稼働時間が定番。
  • Q3配賦の手順は、間接費を集計→配賦ドライバを選ぶ→配賦率(間接費÷ドライバ総量)を計算→製品ごとのドライバ消費量に配賦率を掛けて配賦、の流れ。
  • Q4配賦後の製品別原価まで出して初めて、製品ごとの採算と値決めの根拠が見える。配賦ドライバは一度決めたら頻繁に変えないことが、製品間・期間間の比較を成り立たせる。

このガイドの範囲 — 製造原価に固有の「配賦手順」に絞る

中小製造業で製品別の原価が見えなくなる主因は、製造間接費(工場の電力・減価償却・間接部門費など)を製品別に配賦できていないことです。なぜどんぶり原価になりやすいのか、業界平均との比較や採算単位・KPIといった背景は中小製造業の「製品別の原価が見えない」を直すで解説しています。人件費・共通費を含む配賦の汎用手順(売上総利益→人件費→重要科目→共通費の順)と配賦基準の選び方の総論は人件費・共通費の配賦の決め方にまとめています。

このガイドは、それらを前提に、製造業に固有の論点——個別原価計算と総合原価計算の選び方、製造間接費の配賦ドライバの選定、配賦率の計算と製品別原価の算出——という手順だけに絞って解説します。

企業会計審議会の「原価計算基準」では、製造原価を直接材料費・直接労務費・製造間接費に区分し、製造間接費は適切な配賦基準によって各製品に配賦すると定めています。また、生産形態に応じて個別原価計算と総合原価計算を使い分けることも整理されています。配賦は感覚ではなく、この公的な基準を土台に進められます。

出典原価計算基準(企業会計審議会)

ステップ1|生産形態で原価計算の方式を選ぶ

最初に、自社の生産形態に合った原価計算の方式を選びます。判断の軸は「製品を個別の指図で作るか、同じ製品を連続して作るか」です。

生産形態 採用する方式 原価の集計単位 向くケース
受注生産(種類の異なる製品を個別に) 個別原価計算 受注案件(製造指図書)別 機械・金型・特注品など一品一様
見込生産(同じ製品を連続して) 総合原価計算 工程別・期間別 食品・部品など量産品
受注品と量産品が混在 製品群ごとに使い分け 製品群別 両方を抱える中小製造

受注生産は案件ごとに原価を集計し、案件が完成した時点でその案件の原価が確定します。見込生産は一定期間の工程ごとに原価を集計し、完成品と期末仕掛品(未完成在庫)に按分します。1社の中で両方ある場合は、製品群ごとに方式を分けて適用します。

ステップ2|製造間接費を集計し、配賦ドライバを選ぶ

直接材料費・直接労務費は製品に直接ひもづけます。問題は、工場の電力・減価償却・間接部門の人件費といった製造間接費です。これらはどの製品で発生したかを直接特定できないため、配賦ドライバ(配賦基準)で各製品に割り当てます。

配賦ドライバは「その間接費が何に応じて増減するか」に最も近いものを選びます。

工程・費用の性質 適した配賦ドライバ 選ぶ理由
人手の作業が中心の工程 直接作業時間 間接費が人の作業時間に比例しやすい
機械加工が中心の工程 機械稼働時間 設備の費用は稼働時間に比例
複数製品が同じ設備を共有 操業度(生産量・数量) 生産量が費用負担の実態に近い
段取り・検査など回数で発生 段取回数・検査回数 活動の回数が費用の発生源

工場が複数の工程に分かれている場合は、工程ごとに製造間接費を集計し、工程ごとに配賦ドライバを分けて持つのが基本です。全社一律の配賦率で割ると、機械工程の製品にも作業時間基準の配賦が乗るなど、実態とずれます。

ステップ3|配賦率を計算する

選んだ配賦ドライバで、配賦率を計算します。

配賦率=一定期間の製造間接費の総額÷同じ期間の配賦ドライバの総量

たとえば、ある工程の月の製造間接費が300万円、その月の直接作業時間の合計が1,500時間なら、配賦率は1時間あたり2,000円です。工程ごとに性質が違えば、工程別に配賦率を分けて持ちます。

ステップ4|製品ごとに配賦して製品別原価を出す

各製品が消費した配賦ドライバの量に、配賦率を掛けた金額を製造間接費として割り当てます。これに直接材料費・直接労務費を足すと、製品別の製造原価が出ます。

製品への配賦額=その製品のドライバ消費量×配賦率 製品別製造原価=直接材料費+直接労務費+配賦した製造間接費

ここまで出して初めて、製品ごとの採算と、見積・値決めの根拠が見えます。

計算例|製造間接費を2製品に配賦する

考え方を具体化します。ある工程の月の製造間接費が300万円、配賦ドライバを直接作業時間とし、その月の直接作業時間の合計が1,500時間(製品A 1,000時間・製品B 500時間)だった場合です。

配賦率は「300万円 ÷ 1,500時間 = 1時間あたり2,000円」になります。これを各製品の作業時間に掛けて配賦します。

項目 製品A 製品B 合計
直接材料費 200万円 150万円 350万円
直接労務費 120万円 60万円 180万円
直接作業時間 1,000時間 500時間 1,500時間
製造間接費の配賦額 200万円(1,000時間×2,000円) 100万円(500時間×2,000円) 300万円
製品別製造原価 520万円 310万円 830万円

ここで配賦ドライバを直接作業時間から機械稼働時間に変えると、各製品の配賦額は変わり、製品別原価も動きます。だからこそ、配賦ドライバは工程の実態に最も近いものを選び、一度決めたら継続することが重要です。基準が動くと、製品間・期間間の比較ができなくなります。

つまずきやすいポイント

  • 生産形態に合わない方式を使う — 受注品に総合原価計算を当てると案件別の採算が出ません。受注生産は個別、見込生産は総合が基本です。
  • 全社一律の配賦率で割る — 人手中心の工程と機械中心の工程を同じ基準で配賦すると実態とずれます。工程ごとに配賦ドライバと配賦率を分けます。
  • 配賦ドライバを頻繁に変える — 基準が動くと製品間・期間間の比較ができません。実態が大きく変わったときだけ、変更前後を併記して見直します。
  • 仕掛品の評価を飛ばす — 期末仕掛品に投入済みの間接費を正しく按分しないと、完成品の原価と利益がずれます。
  • 配賦の精緻化に時間をかけすぎる — 配賦は推定です。金額の大きい間接費から実態に近いドライバで配賦し、製品別の限界利益と併せて判断します。

Excel・手作業の限界と、その先

製品数や工程が少ないうちは、Excelで製造間接費の配賦と製品別原価を出せます。ただし、毎月の間接費を工程別に集計し、配賦ドライバの実績(作業時間・機械時間)を取り込んで製品別に配賦する作業を手で繰り返すと、属人化・更新遅延・履歴が追えないという弱点が出ます。とくに工程の切り方や配賦ドライバのルールが担当者の頭の中にあると、その人が抜けた瞬間に再現できなくなります。

どの工程でどの間接費が発生し、どのドライバに紐づくかは、業務棚卸しで工程と費用の紐づけを洗い出しながら整理すると、配賦の精度が上がります。

AI管理会計ビルダーでの解き方

AI管理会計ビルダーは、この「方式の選定→直接費の集計→製造間接費の配賦→製品別原価の継続把握」を、会社固有の形でつくります。業務棚卸しで工程・製品・受注のどの単位で採算を見るかを設計し、生産管理・原価・会計のデータを製品単位でつなぎ、工程別の配賦ドライバを実態に合わせて設計します。ツールのテンプレートに会社を合わせるのではなく、会社の生産構造に合わせて製品別原価を出せるようにします。

製品別の原価が見えると、見積と値決めに根拠が持てます。無料診断で、自社の配賦ドライバと原価計算の論点を洗い出せます。

よくある質問

個別原価計算と総合原価計算はどう選べばよいですか?
生産形態で選びます。受注生産のように種類の異なる製品を個別の指図(受注案件)ごとに作る場合は、案件単位で原価を集計する個別原価計算が基本です。見込生産のように同じ製品を連続して大量に作る場合は、一定期間の工程ごとに原価を集計し、完成品と期末仕掛品に按分する総合原価計算が基本です。原価計算基準でも、両者は生産形態に応じて使い分けるものと整理されています。1つの会社で受注品と量産品が混在する場合は、製品群ごとに方式を分けて適用します。
配賦ドライバ(配賦基準)はどう選べばよいですか?
その製造間接費が「なぜ・何に応じて発生しているか」に最も近い基準を選びます。人手の作業が中心の工程なら直接作業時間、機械加工が中心の工程なら機械稼働時間、複数製品が同じ設備を使うなら操業度(生産量)が定番です。原価計算基準でも、製造間接費は適切な配賦基準によって製品に配賦するとされています。重要なのは、選んだ配賦ドライバを頻繁に変えないことです。基準を変えると製品間・期間間で原価の比較ができなくなります。
配賦率はどうやって計算しますか?
配賦率=一定期間の製造間接費の総額÷同じ期間の配賦ドライバの総量、で計算します。たとえば月の製造間接費が300万円、その月の直接作業時間の合計が1,500時間なら、配賦率は1時間あたり2,000円です。各製品には、その製品が消費した直接作業時間に配賦率(2,000円)を掛けた金額を製造間接費として割り当てます。工程ごとに作業の性質が違う場合は、工程別に配賦率を分けて持つと精度が上がります。
工場が複数の工程に分かれている場合はどう配賦しますか?
工程(部門)ごとに製造間接費を集計し、工程ごとに配賦ドライバと配賦率を分けて持つのが基本です。組立工程は人手中心なので直接作業時間、加工工程は機械中心なので機械稼働時間、というように工程の性質に合った基準を選びます。全社一律の配賦率で割ると、機械工程の製品にも人件費基準の配賦が乗るなど実態とずれます。配賦の全体像(売上総利益→人件費→重要科目→共通費の順)と部門別の進め方は人件費・共通費の配賦の決め方のガイドにまとめています。
配賦を細かくやればやるほど正確になりますか?
必ずしもそうではありません。配賦は本質的に「直接ひもづかない費用を一定の基準で割り当てる」推定であり、基準を細かくしても元が推定である点は変わりません。むしろ、金額の小さい間接費まで精緻に配賦しようとすると運用が止まります。まず金額の大きい間接費を、発生実態に近いドライバで配賦するのが優先です。製品別の意思決定では、配賦後の製品別原価だけでなく、配賦の影響を受けない製品別の限界利益(売上−変動費)と併せて読むと判断を誤りにくくなります。