ガイド

不動産の物件別NOIの出し方

不動産の物件別の正味採算を、NOIの算式(賃料収入−運営費)→減価償却・支払利息の物件配賦→物件別NOI・NOI利回りの算出まで計算例つきで解説。NOIは減価償却・借入返済を含めず物件の稼ぐ力を測る。証券化対象の取得は住宅23.0%・宿泊21.7%(国交省・令和6年度)。

この記事の目次
  1. このガイドの位置づけ — 物件別NOIを「計算する手順」
  2. 物件別NOIを出す3ステップ
  3. ステップ1|物件ごとにNOI(賃料収入−運営費)を出す
  4. ステップ2|NOI利回りを出して物件横断で比べる
  5. ステップ3|減価償却・支払利息・共通費を物件に配賦する
  6. 計算手順を算式で押さえる
  7. 計算例|2物件の正味採算を組み立てる
  8. つまずきやすいポイント
  9. Excel・手作業の限界と、その先
  10. AI管理会計ビルダーでの解き方
  11. よくある質問
  12. 関連リンク
  13. 出典
この記事の要点AI / AEO 最適化
  • Q1物件別の正味採算は、NOI(賃料収入−運営費)を物件ごとに出す→取得管理原価・減価償却・支払利息を物件に配賦する→物件別NOIとNOI利回り、さらに税引前の物件別利益を出す、という手順で組み立てる。
  • Q2NOI=賃料・共益費などの収入−運営費(管理費・修繕費・固定資産税・保険・空室損)。減価償却と借入返済はNOIに含めない。財務の影響を除いた物件そのものの稼ぐ力を比べるための指標だから。
  • Q3減価償却と支払利息は、NOIの後段で物件に配賦する。借入を全社一括で組んでいる場合は、物件の取得額や借入残高に応じて金利を按分する基準を先に決める。基準は一度決めたら頻繁に変えない。
  • Q4比較にはNOI利回り(NOI÷物件価格)を使う。運営費を反映しない表面利回りより低く出るが、実際に手元に残る稼ぐ力に近い。同用途・同地域の取引水準と経年で読む。

このガイドの位置づけ — 物件別NOIを「計算する手順」

不動産で物件別の利益が見えなくなる構造的な理由や、業界の収益性ベンチマークは不動産業の「物件別の正味採算(NOI)が見えない」を直すにまとめています。NOI・NOI利回りという指標そのものの定義・表面利回りとの違いはNOIとはに、物件・案件を採算単位に切り出す汎用の手順は事業別PLの作り方にまとめています。

このガイドはその先、物件別NOIを実際に計算する手順だけに絞ります。NOIをどの費用まで引いて出し、減価償却と支払利息をどの基準で物件に配賦し、NOI利回りをどう読むか。算式と計算例で、つまずき所まで具体化します。

国土交通省の不動産証券化の実態調査によると、令和6年度末時点で証券化対象不動産の資産総額の推計は約66.6兆円、令和6年度に取得された資産の用途別割合は住宅23.0%・宿泊施設21.7%・物流施設17.6%の順でした。用途によって賃料水準も運営費の構造も大きく違うため、NOI・NOI利回りは全社平均ではなく物件別・用途別に出す必要があります。

出典国土交通省「不動産証券化の実態調査」(令和6年度・用途別取得実績)

物件別NOIを出す3ステップ

物件別の正味採算は、次の順で組み立てます。いきなり減価償却・金利まで配賦せず、まず賃料と運営費からNOIを固めるのが定石です。

ステップ1|物件ごとにNOI(賃料収入−運営費)を出す

物件ごとに、賃料・共益費などの収入を集計し、その物件にかかる運営費(管理委託費・修繕費・固定資産税・保険・水道光熱の一部・空室損)を引きます。NOI=賃料・共益費などの収入 − 運営費。空室損も収入から差し引くのがポイントです。ここには減価償却費も借入金利も入れません。NOIは財務の影響を除いた、物件そのものの運営力を表す段階です(NOIの定義はNOIとはを参照)。

ステップ2|NOI利回りを出して物件横断で比べる

NOIを物件価格(または取得額)で割って、NOI利回り(%)=NOI ÷ 物件価格 × 100を出します。NOIそのものは物件規模で金額が変わるため、横並びで採算を比べるにはNOI利回りを使います。運営費を反映しない表面利回りより低く出ますが、実際に手元に残る稼ぐ力に近くなります。

ステップ3|減価償却・支払利息・共通費を物件に配賦する

NOIの後段で、その物件の取得に対応する減価償却費(建物取得価額÷耐用年数で物件ごとに直接計算)と、取得に充てた借入の支払利息を物件へ配賦します。借入を全社一括で組んでいる場合は、物件の取得額や借入残高に応じて金利を按分します。本社費などの共通費も床面積比や物件数比で配賦します。ここまで引くと、税引前の物件別利益まで見えます。原価計算基準が示すように、共通して発生する費用は適切な配賦基準で割り当てます(配賦の基本は人件費・共通費の配賦の決め方を参照)。

計算手順を算式で押さえる

各ステップを算式にすると、Excelでもそのまま組めます。

段階 算式
NOI(純営業収益) 賃料・共益費などの収入 − 運営費(空室損を含む)
NOI利回り(%) NOI ÷ 物件価格 × 100
物件別の減価償却費 建物取得価額 ÷ 耐用年数(定額法の場合)
物件への金利配賦額 全社の支払利息 ×(その物件の借入残高 ÷ 全社の借入残高)
税引前の物件別利益 NOI − 物件別の減価償却費 − 物件への金利配賦額 − 共通費の配賦額

NOIは「運営費まで引く」、減価償却と金利は「NOIの後段で物件に配賦する」のが基本です。金利を全社一括で按分するときは、取得額比か借入残高比かを最初に決めて固定します。

計算例|2物件の正味採算を組み立てる

考え方を具体化します。物件X(物件価格2.0億円・年間賃料収入1,400万円・運営費400万円)と物件Y(物件価格1.5億円・年間賃料収入1,050万円・運営費200万円)があるとします。減価償却は建物分でXが年500万円・Yが年300万円、全社の支払利息600万円を借入残高比(X:Y=3:1)で配賦します。

まずNOIは、Xが1,400万円−400万円=1,000万円、Yが1,050万円−200万円=850万円。NOI利回りはXが5.0%、Yが約5.7%です。金利配賦はXに450万円・Yに150万円。これらを引くと次のようになります。

項目 物件X 物件Y
賃料・共益費収入 1,400万円 1,050万円
運営費(空室損含む) 400万円 200万円
NOI 1,000万円 850万円
NOI利回り 5.0% 約5.7%
減価償却費 500万円 300万円
金利配賦額 450万円 150万円
税引前の物件別利益 50万円 400万円

ここで読み取りたいのは、NOIの段階では物件Xが1,000万円とYの850万円を上回り、Xの方が稼いでいるように見える点です。ところが減価償却と金利まで配賦すると、税引前利益はXが50万円・Yが400万円と逆転します。NOI利回りでもXは5.0%でYの5.7%に劣後しており、Xは賃料規模が大きくても取得コストと金利が重い物件だと分かります。NOIは物件の運営力、税引前利益は財務まで含めた最終採算で、両方を物件単位で見て初めて保有・売却の判断ができます。仮に表面利回りだけで見ればXは7.0%(1,400万円÷2.0億円)と高く見え、運営費・金利を見落とすと判断を誤ります。

つまずきやすいポイント

  • NOIに減価償却や借入返済まで含める — NOIは運営費だけを引く指標です。減価償却・金利を混ぜると物件の運営力を横並びで比べられなくなります。後段で別に配賦します。
  • 空室損を収入から引き忘れる — 満室想定のままNOIを出すと採算が過大になります。空室損も運営費側で差し引きます。
  • 表面利回りでNOI利回りを代用する — 表面利回りは運営費を考えていないため見かけが高く出ます。物件比較は運営費を反映したNOI利回りで行います(NOIとは参照)。
  • 金利の配賦基準を物件ごとに変える — 取得額比と借入残高比を物件ごとに使い分けると、物件間・期間間で比較できません。基準を固定します。
  • 全社平均の利益率で物件を判断する — 全社が黒字でも、物件別に分けると採算が反転する物件が混ざります。物件別NOIと税引前利益まで割って判断します。

Excel・手作業の限界と、その先

物件別NOIの最初の一歩はExcelで十分です。NOIの算出も、減価償却・金利の物件配賦も、NOI利回りの計算もExcelから始められます。ただしExcel運用は、属人化・更新遅延・物件マスタの不整合という弱点を抱えやすく、毎月これを物件別に回す段階で限界が出ます。とくに金利の配賦基準や共通費の割り振りが担当者の頭の中にあると、その人が抜けた瞬間に再現できなくなります。

ここで多くの会社が不動産管理システムや会計ソフトの導入を考えますが、その多くは賃料・入出金は管理できても、減価償却・借入金利・本社費の配賦といった会計側の論点とはつながっていません。自社の採算単位と配賦基準を先に設計しないまま入れると、テンプレートに業務を無理に合わせることになり、出てくる物件別利益が実態から離れます。順序は「NOIの算式と減価償却・金利の配賦基準を固める→その構造を崩さずに運用へ乗せる」です。

AI管理会計ビルダーでの解き方

AI管理会計ビルダーは、この「NOIの算出→NOI利回りでの比較→減価償却・金利・共通費の物件配賦→税引前の物件別利益」という流れを、会社固有の形でつくります。業務棚卸しで物件・案件・事業のどの単位で採算を見るかを設計し、賃料・運営費・減価償却・借入金利・共通費を物件単位でつなぎ、物件別NOIと税引前利益をデータ基盤から継続的に出せる形にします。賃料管理と会計が分断した状態からでも、物件別の正味採算の見える化を始められます。

物件別NOIは、NOIの算式と減価償却・金利の配賦設計が土台です。無料診断で、自社の物件別採算が「どこで見えなくなっているか」を可視化できます。

よくある質問

物件別NOIは、どの順番で計算しますか?
3段階で組み立てます。第1に、物件ごとに賃料・共益費などの収入を集計し、その物件の運営費(管理費・修繕費・固定資産税・保険・空室損など)を引いてNOI(純営業収益)を出します。第2に、NOIを物件価格で割ってNOI利回りを出し、物件横断で稼ぐ力を比べます。第3に、NOIの後段で、その物件の取得に対応する減価償却費と、取得に充てた借入の支払利息を物件へ配賦し、税引前の物件別利益まで見ます。最初は賃料と直接の運営費から始め、減価償却・金利の配賦を後から精緻にすると続けやすくなります。
NOIに減価償却や借入の返済は含めますか?
含めません。NOIは賃料収入から運営に必要な経費だけを引いた指標で、減価償却費や借入金の元利返済は差し引きません。減価償却や借入条件は会社の財務方針や資金調達で変わるのに対し、NOIは物件そのものが生む稼ぐ力を財務の影響を除いて比べるための指標だからです。減価償却・金利は、NOIを出した後の段階で物件に配賦して、税引前の物件別利益として別に見ます。返済後に手元に残るキャッシュを見たいときは、NOIからさらに元利返済を引いた税引前キャッシュフローを目的に応じて使い分けます。
減価償却や借入金利は、物件別にどう配賦すればよいですか?
減価償却費は、各物件の建物取得価額と耐用年数から物件ごとに直接計算できます。支払利息は、その物件の取得に充てた借入が特定できれば直課しますが、全社一括で借りている場合は配賦が必要です。物件の取得額や借入残高に応じて金利を按分する基準を先に決め、原価計算基準が示すように一度決めた基準を頻繁に変えないことが、物件間・期間間の比較を保つコツです。本社費などの共通費も同様に、床面積比や物件数比などの基準で配賦します。
NOI利回りと表面利回り(グロス利回り)はどう違いますか?
差し引く費用が違います。表面利回りは年間賃料収入をそのまま物件価格で割った数字で、運営費や空室損を考えていません。NOI利回りは、賃料収入から管理費・修繕費・固定資産税・保険・空室損などの運営費を引いたNOIを物件価格で割るため、実際に手元に残る稼ぐ力に近くなります。表面利回りは見かけが高く出やすいので、物件を比べるときは運営費まで反映したNOI利回りで見るのが実務的です。NOI利回りの定義そのものは用語集にまとめています。
Excelで物件別NOIを出してもよいですか?
始めの一歩としては有効です。NOIの算出も、減価償却・金利の物件配賦も、NOI利回りの計算もExcelから始められます。ただし、物件ごとの賃料・運営費の集計と、減価償却・金利・共通費の配賦を毎月手作業で繰り返すと、属人化・更新遅延・物件マスタの不整合が起きやすく、保有物件が増える段階で限界が出ます。まずNOIの算式と配賦基準という構造を固め、その構造を崩さずに運用へ乗せるのが重要です。