Q1取引先別の正味粗利は、仕入差(売上−仕入)に物流費・保管費を配賦し、リベートを控除した4段階で組み立てる。仕入差止まりで採算を見ると、配賦後に赤字へ反転する取引先を見落とす。Q2物流費・保管費は取引先に直課できないものが多く、出荷量・配送回数・重量・距離などの基準で取引先と商品に配賦する。基準は費用の発生実態に最も近いものを選び、一度決めたら頻繁に変えない。Q3リベート(販売奨励金)は収益認識会計基準で変動対価に当たり、原則として費用ではなく売上からの控除として扱う。控除のタイミングは、収益を認識する時と支払いを約束する時の遅い方に合わせる。Q4まず売上と仕入を取引先軸で名寄せし、配賦とリベート控除のルールを固定してから計算に入る。商品マスタの名寄せが崩れていると、取引先別の正味粗利そのものがずれる。
このガイドの位置づけ — 取引先別の正味粗利を「計算する手順」
卸売・商社で取引先別の本当の粗利が見えなくなる構造的な理由や、業界平均との比較は卸売・商社の「取引先ごとの本当の粗利が見えない」を直すにまとめています。このガイドはその先、取引先別の正味粗利を実際に計算する手順に絞ります。仕入差をどう名寄せし、物流費をどの基準で配賦し、リベートをいつ・いくら控除するか。算式と計算例で、つまずき所まで具体化します。
卸売の採算管理がむずかしいのは、原価の中心である仕入差は出しやすい一方、物流費・保管費・リベートが全社の販管費にまとめられ、取引先ごとの正味粗利に落ちてこないからです。粗利率がもともと薄い業種なので、これらを取引先別に配賦・控除して初めて、黒字と思っていた取引先の採算が反転する、という実態が見えます。
取引先別の正味粗利を出す4ステップ
正味粗利は、次の順で段階的に組み立てます。いきなり全費用を精緻に配賦せず、名寄せと金額の大きい費用から固めるのが定石です。
ステップ1|売上と仕入を取引先軸で名寄せして仕入差を出す
最初に、売上明細と仕入明細を取引先別・商品別に名寄せします。卸売でつまずきやすいのがここで、同じ商品が取引先や仕入先ごとに別コードで登録されていると、仕入差が正しく集計できません。商品マスタを整え、取引先ごとに「売上−仕入=仕入差(売上総利益)」を出します。ここはもっとも紐づけやすい段階で、配賦の議論に入る前の土台になります。
ステップ2|物流費・保管費を取引先・商品に配賦する
配送費・保管費は特定の取引先に直課できないものが多く、配賦が必要です。費用の発生実態に近い基準を選びます。配送費は出荷量・配送回数・重量・距離、保管費は保管スペースや平均在庫量が定番です。原価計算基準も、複数の対象に共通して発生する間接費は適切な配賦基準で割り当てるという考え方を示しています。配賦の進め方の基本は人件費・共通費の配賦の決め方にまとめています。
ステップ3|リベート(販売奨励金)を取引先の正味売上から控除する
取引先に支払うリベート・販売奨励金は、収益認識会計基準で変動対価に当たり、原則として費用ではなく売上からの控除として扱います。取引先ごとの正味売上を引き下げるものとして、取引先別に結びつけて控除します。控除する時点は、商品の移転に対する収益を認識する時と、支払いを約束する時の、いずれか遅い方に合わせます。事後に確定する達成リベートは、達成見込みで見積もって毎月引き当てます。
ステップ4|取引先別の正味粗利を確定する
仕入差から、配賦した物流費・保管費と、控除したリベートを差し引いて、取引先別の正味粗利を出します。ここで初めて「どの取引先・どの商品で本当に稼げているか」が見えます。商品別まで割れば、不採算商品の特定にもつながります。
計算手順を算式で押さえる
各ステップを算式にすると、Excelでもそのまま組めます。
| 段階 | 算式 |
|---|---|
| 仕入差(売上総利益) | 取引先別売上 − 取引先別仕入 |
| 物流費の配賦単価 | 月の総物流費 ÷ 配賦基準の総量(例:総出荷重量) |
| 取引先への物流費配賦額 | 配賦単価 × その取引先の基準量(例:出荷重量) |
| リベート控除額 | 正味売上 × リベート率(または達成見込みでの引当額) |
| 取引先別の正味粗利 | 仕入差 − 物流費・保管費の配賦額 − リベート控除額 |
物流費は「総額を基準量で割って単価を出し、取引先ごとの基準量を掛ける」のが基本形です。基準量を出荷重量にするか配送回数にするかは、自社の物流費が何で増減するかで選びます。重量物中心なら重量、小口多頻度なら配送回数が実態に近くなります。
計算例|2取引先の正味粗利を組み立てる
考え方を具体化します。取引先X(売上3,000万円・仕入2,400万円)と取引先Y(売上1,000万円・仕入820万円)があるとします。月の総物流費は120万円で、出荷重量はX:Y=7:3。リベートはXのみ、正味売上に対し3%支払う契約です。
まず物流費の配賦単価は、出荷重量比7:3なので、120万円をXに84万円・Yに36万円割り当てます。Xのリベートは、正味売上3,000万円×3%=90万円。これらを差し引くと次のようになります。
| 項目 | 取引先X | 取引先Y |
|---|---|---|
| 売上 | 3,000万円 | 1,000万円 |
| 仕入 | 2,400万円 | 820万円 |
| 仕入差(売上総利益) | 600万円 | 180万円 |
| 物流費の配賦額 | 84万円 | 36万円 |
| リベート控除額 | 90万円 | 0万円 |
| 取引先別の正味粗利 | 426万円 | 144万円 |
| 正味粗利率 | 14.2% | 14.4% |
ここで読み取りたいのは、仕入差の段階では取引先Xが600万円とYの180万円を大きく上回り、Xの方が圧倒的に稼いでいるように見える点です。ところが物流費とリベートまで配賦・控除すると、正味粗利率はX:14.2%、Y:14.4%とほぼ並びます。仕入差の大きさは取引先の規模を映すだけで、正味の採算は配賦・控除後でないと見えない。これが取引先別粗利を計算する意味です。仮にXの出荷が小口多頻度で物流費がさらに重ければ、正味粗利率が逆転することもあります。
つまずきやすいポイント
- 仕入差止まりで採算を判断する — 物流費とリベートを配賦・控除しないと、規模の大きい取引先ほど儲かって見えます。正味粗利まで出してから判断します。
- 商品マスタの名寄せが崩れている — 同じ商品が別コードで登録されていると仕入差がずれ、その先の配賦も全部ずれます。計算の前に名寄せを固めます。
- リベートを費用に計上してしまう — 収益認識基準では変動対価として売上控除が原則です。販管費に混ぜると取引先別の正味売上がゆがみます。
- 達成リベートを確定時まで先送りする — 月次の取引先別粗利が実態より大きく見えます。達成見込みで毎月引き当てます。
- 物流費の配賦基準を頻繁に変える — 基準が動くと取引先間・期間間で比較できません。一度決めたら継続し、物流構造が大きく変わったときだけ見直します。
Excel・手作業の限界と、その先
取引先別の正味粗利の最初の一歩はExcelで十分です。仕入差の集計も、物流費の配賦試算も、リベートの控除もExcelから始められます。ただしExcel運用は、属人化・更新遅延・名寄せの崩れという弱点を抱えやすく、毎月これを取引先別に回す段階で限界が出ます。とくに商品マスタの名寄せルールや配賦基準、リベート条件が担当者の頭の中にあると、その人が抜けた瞬間に再現できなくなります。
ここで多くの会社が販売管理システムの導入を考えますが、その多くは取引明細・原価の集計単位・配賦基準が整っている前提で作られています。名寄せも配賦も未設計のまま入れると、テンプレートに自社の商流を無理に合わせることになり、かえって実態から離れた数字が出ます。順序は「名寄せと配賦・リベート控除のルールを固める→その構造を崩さずに運用へ乗せる」です。
AI管理会計ビルダーでの解き方
AI管理会計ビルダーは、この「名寄せ→仕入差→物流費の配賦→リベートの控除→正味粗利」という流れを、会社固有の形でつくります。業務棚卸しで取引先・商品・物流ルートのどの単位で採算を見るかを設計し、販売・物流・会計のデータを取引先単位でつなぎ、物流費の配賦とリベートの控除をデータ基盤から継続的に回せる形にします。商品マスタの名寄せやリベート条件が未整備な状態からでも、取引先別の正味粗利の見える化を始められます。
取引先別の正味粗利は、名寄せと配賦・リベート控除のルール設計が土台です。無料診断で、自社の取引先別採算が「どこで見えなくなっているか」を可視化できます。
よくある質問
取引先別の正味粗利は、どの順番で計算しますか?
物流費・保管費はどの基準で取引先に配賦すればよいですか?
リベート(販売奨励金)は売上から引くのですか、費用に計上するのですか?
事後に確定するリベート(年間達成リベートなど)はどう見積もりますか?
Excelで取引先別の正味粗利を出してもよいですか?
関連リンク
- 業種の全体像: 卸売・商社の「取引先ごとの本当の粗利が見えない」を直す
- ガイド: 人件費・共通費の配賦の決め方 / 変動費・限界利益の出し方 / 事業別PLの作り方
- 用語: 配賦とは / 限界利益とは / 在庫回転率とは
- サービス: AI管理会計ビルダーとは