ガイド

ECのチャネル別限界利益の出し方

自社サイト・楽天・Amazonでチャネル別の限界利益を出す手順を具体化。モール手数料(楽天2.0〜7.0%・Amazon6〜15%)・決済料約3%・送料・広告費を注文に紐づけて変動費分離し、チャネル別の正味利益を算出する流れと計算例、つまずき所までを実務手順で解説。

この記事の目次
  1. このガイドの範囲 — チャネル別に変動費を分ける「手順」に絞る
  2. ステップ1|採算単位を「チャネル×商品」に固定する
  3. ステップ2|注文明細にチャネル別の変動費を紐づける
  4. ステップ3|チャネルごとに変動費を集計する
  5. ステップ4|チャネル別限界利益を算出する
  6. 計算例|同じ商品を3チャネルで売ったときの限界利益
  7. 損益分岐点ROASの出し方|広告の上限を決める
  8. つまずきやすいポイント
  9. Excel・手作業の限界と、その先
  10. AI管理会計ビルダーでの解き方
  11. よくある質問
  12. 関連リンク
  13. 出典
この記事の要点AI / AEO 最適化
  • Q1ECのチャネル別限界利益は、チャネルごとの売上から、その注文に紐づく変動費(商品原価・モール手数料・決済料・送料・梱包費・付与ポイント・売上連動の広告費)を引いて出す。
  • Q2同じ商品でも自社サイト・楽天・Amazonで手数料構造が違う。楽天市場は売上連動の利用料が約2.0〜7.0%、Amazonは販売手数料が約6〜15%、決済料は約3%。チャネルごとに変動費率を分けて持つのが起点。
  • Q3手順は、採算単位をチャネル×商品に固定→注文明細にチャネル別の変動費を紐づけ→チャネルごとに変動費を集計→売上から引いてチャネル別限界利益を算出、の4ステップ。
  • Q4限界利益率が分かると、損益分岐点ROAS(限界利益と広告費が釣り合う水準)が計算でき、チャネルごとに広告の上限と伸ばす商品が判断できる。

このガイドの範囲 — チャネル別に変動費を分ける「手順」に絞る

ECで「売上は伸びているのに、どのチャネルで利益が残っているか分からない」という状態は、チャネルごとに手数料・送料・決済料・広告費の構造が違うのに、それを注文に紐づけて分離できていないことが原因です。なぜ粗利では見えないのか、収益認識やROASの考え方といった背景はECの「チャネル別の正味利益」が見えないで解説しています。限界利益そのものの定義や固変分解の汎用手順は変動費・限界利益の出し方にまとめています。

このガイドは、それらを前提に、EC固有の変動費(モール手数料・送料・決済料・広告費)をチャネル別に分離し、チャネル別の限界利益を算出する具体手順だけに絞って解説します。

経済産業省の「令和6年度 電子商取引に関する市場調査」によると、2024年の物販系BtoC-EC市場規模は15兆2,194億円(前年比+3.7%)に拡大しました。市場が伸びるほど出店するチャネルは増え、同じ商品でも自社サイト・楽天市場・Amazonで売上連動の手数料が変わります。チャネルごとに変動費を分けて見ることが、採算を読む前提になります。

出典経済産業省「令和6年度 電子商取引に関する市場調査」(2025年8月公表)

ステップ1|採算単位を「チャネル×商品」に固定する

最初に、どの単位で限界利益を出すかを決めます。ECの基本単位はチャネル×商品(SKU)です。送料無料ラインや同梱の判断まで踏み込むなら、注文単位まで下ろします。

チャネルは「自社サイト/楽天市場/Amazon/Yahoo!ショッピング」のように、手数料構造が異なる単位で切ります。同じモールでもプランで手数料率が違う場合は、その違いも持っておきます。この単位を一度決めたら崩さないことが、後の比較を成り立たせます。

ステップ2|注文明細にチャネル別の変動費を紐づける

次に、注文一件ごとに発生する変動費を、その注文のチャネルに合わせて紐づけます。ECの変動費は商品原価だけではありません。下表の費目を、売上連動かどうかで仕分けます。

費目 区分 チャネル別に変わるか
商品原価(仕入) 変動費 チャネルでは変わらない
モール手数料(システム利用料・販売手数料) 変動費 大きく変わる
決済代行手数料(約3%) 変動費 決済手段で変わる
送料・配送料 変動費 出荷条件で変わる
梱包・配送資材費 変動費 ほぼ一定
付与ポイントの原資 変動費 モールのポイント施策で変わる
売上連動の広告費(運用型) 変動費 チャネルで大きく変わる
倉庫固定費・正社員人件費・システム月額 固定費 限界利益では外す

ポイントは、モールの手数料明細から売上総額と各手数料を分けて記録することです。モールの管理画面に出る入金額は手数料差し引き後であることが多く、その入金額を売上として扱うと、いくら手数料を払ったかが見えなくなります。

ステップ3|チャネルごとに変動費を集計する

紐づけた変動費を、チャネルごとに合計します。中小企業庁の「中小企業BCP策定運用指針」では、卸小売業の費用を変動費・固定費に分ける基準と、直接原価方式で変動費を集計する手順が公開されています。EC固有の手数料・送料・広告費も、この「売上に連動するか」の物差しで仕分けると一貫します。

このとき、チャネルごとに変動費率(変動費÷売上高)を出しておくと、商品横断でチャネルの採算構造が比較できます。

ステップ4|チャネル別限界利益を算出する

チャネルごとの売上から、集計した変動費を引きます。これがチャネル別の限界利益です。

チャネル別限界利益=チャネル売上高−チャネルに紐づく変動費

限界利益を売上高で割れば、チャネル別限界利益率が出ます。この率が、広告の上限や伸ばすチャネルを判断するものさしになります。限界利益・限界利益率の基本式は変動費・限界利益の出し方を参照してください。

計算例|同じ商品を3チャネルで売ったときの限界利益

考え方を具体化します。販売価格5,000円・商品原価2,000円の同じ商品を、自社サイト・楽天市場・Amazonの3チャネルで月100件ずつ売った場合を比べます。手数料率は各モールの公開料金(2025年時点)の水準を用い、自社サイトはモール手数料が無い代わりに広告費が重い構造を置いています。

項目(1件あたり) 自社サイト 楽天市場 Amazon
売上高 5,000円 5,000円 5,000円
商品原価 2,000円 2,000円 2,000円
モール手数料 0円 250円(5.0%) 750円(15%)
決済手数料(約3%) 150円 150円 0円(モール内包)
送料・梱包 600円 600円 0円(FBA別建て・本例は別)
売上連動の広告費 800円 300円 250円
変動費 合計 3,550円 3,300円 3,000円
限界利益(1件) 1,450円 1,700円 2,000円
限界利益率 29.0% 34.0% 40.0%
月間限界利益(100件) 14万5,000円 17万円 20万円

同じ商品・同じ売価でも、チャネル別限界利益は1件あたり1,450〜2,000円と差が出ます。自社サイトはモール手数料が無い一方、集客の広告費が重く限界利益率が最も低い構造になりました。全社の粗利(売上−商品原価)はどのチャネルも一律3,000円ですが、変動費を引いた後では順位が変わります。粗利だけを見ていると、この差は見えません。

損益分岐点ROASの出し方|広告の上限を決める

チャネル別限界利益率が分かると、広告にいくらまで使えるかが計算できます。損益分岐点ROAS(広告費がちょうど限界利益で回収できる水準)は、広告費を除いた限界利益率の逆数で考えます。

たとえば広告費を除いた限界利益率が40%の商品なら、広告費が売上の40%を超えると限界利益がマイナスに転じます。このとき損益分岐点ROASは「1÷0.40=250%」が目安です。ROAS250%(広告費1に対し売上2.5)を割ると赤字、という最低ラインが引けます。ROASだけを追うと売上は立つのに利益が残らない状態に気づけませんが、限界利益から上限を決めれば防げます(採算ラインの考え方は損益分岐点とはを参照)。

つまずきやすいポイント

  • モールの入金額を売上として扱う — 入金額は手数料差し引き後です。売上総額と手数料を分けて記録しないと、チャネル別の変動費率が出せません。
  • チャネルをまたいで変動費率を共通化する — 楽天とAmazonと自社サイトでは手数料構造が違います。チャネルごとに変動費率を持たないと、伸ばすチャネルの判断を誤ります。
  • 広告費を限界利益の外に置く — 売上連動の運用型広告を固定費扱いにすると、「広告を増やすほど赤字」に気づけません。変動費に入れて限界利益で見ます。
  • 付与ポイントを無視する — ポイント原資は実質的な値引きです。収益認識会計基準でも繰り延べの対象になりえます。変動費に織り込まないと限界利益が甘く出ます。
  • 最初から全費目を完璧に紐づけようとして止まる — まず手数料・決済・送料の3つから始め、続いてから広告費・ポイントを足すほうが定着します。

Excel・手作業の限界と、その先

チャネルが2〜3で商品数が少ないうちは、Excelでチャネル別限界利益を出せます。ただし、モールごとに形式の違う手数料明細を毎月取り込み、注文単位で変動費を紐づける作業を手で繰り返すと、属人化・更新遅延・履歴が追えないという弱点が出ます。とくにチャネル別の変動費分離ルールが担当者の頭の中にあると、その人が抜けた瞬間に再現できなくなります。

どの費用がどのチャネル・どの注文に紐づくかは、業務棚卸しで費用と業務の紐づけを洗い出しながら整理すると、分離の精度が上がります。

AI管理会計ビルダーでの解き方

AI管理会計ビルダーは、この「採算単位の設計→チャネル別の変動費分離→限界利益の継続把握」を、会社固有の形でつくります。業務棚卸しでチャネル・商品・注文のどの単位で採算を見るかを設計し、モール・決済・物流・広告のデータを取り込んで注文単位に変動費を紐づける仕組みをデータ基盤から構築します。ツールのテンプレートに会社を合わせるのではなく、会社のチャネル構造に合わせて限界利益を出せるようにします。

チャネル別の限界利益が見えると、広告の上限と伸ばすチャネルが判断できます。無料診断で、自社の変動費分離の論点を洗い出せます。

よくある質問

ECの変動費には何を入れればよいですか?
売上(注文)に連動して増える費用をすべて変動費に入れます。具体的には、商品原価、モール手数料(システム利用料・販売手数料)、決済代行手数料(約3%)、送料、梱包・配送資材費、付与ポイントの原資、そして売上に連動して動く広告費です。家賃・倉庫固定費・正社員人件費・システム月額固定費は売上が0でも発生するため固定費として、限界利益の計算からは外します。何を変動費に入れるかをチャネルごとに最初に決め、毎回同じ基準で集計するのがポイントです。固変分解の考え方は変動費・限界利益の出し方のガイドにまとめています。
チャネルごとに限界利益を分ける意味はどこにありますか?
同じ商品でも、自社サイト・楽天・Amazonでは売上連動の手数料がまったく違うからです。楽天市場は売上連動のシステム利用料が約2.0〜7.0%、Amazonは販売手数料が約6〜15%、自社サイトはモール手数料が無い代わりに集客の広告費が重くなりがちです。チャネルをひとまとめにした全社の粗利を見ても、どのチャネルで利益が消えているかは分かりません。チャネル別に変動費率を持ち、チャネル別の限界利益を出すことで、伸ばすチャネルと抑えるチャネルを切り分けられます。
広告費は変動費に入れるべきですか、固定費に入れるべきですか?
売上に連動して動かす広告費は変動費に入れて限界利益の中で見るのが有効です。検索連動・商品連動の運用型広告は、売上を増やすために増やす費用なので、限界利益から差し引いて「広告後の限界利益」を見ると、売れるほど赤字を防げます。一方、ブランド認知のための固定的な広告は固定費として扱う考え方もあります。重要なのは、損益分岐点ROAS(限界利益と広告費がちょうど釣り合う水準)を商品・チャネルごとに把握し、それ以下の費用対効果になる広告を抑えることです。
モールの入金額と売上がズレるのはどう扱えばよいですか?
限界利益の計算は「売上総額-変動費」で組み、モールが差し引く手数料は変動費として明示的に計上します。モールの管理画面に表示される入金額は、すでにシステム利用料・決済料などが差し引かれた後の金額であることが多く、その入金額をそのまま売上として扱うと、いくら手数料を払っているかが見えなくなります。手数料明細を取り、売上総額と各手数料を分けて記録することで、チャネル別の変動費率が正しく出せます。なお売上計上のタイミングと入金のタイミングのズレ自体は資金繰りの論点で、売上計上と入金のズレのガイドで扱っています。
最初から全部の変動費を注文に紐づけないと意味がないですか?
完璧でなくても始められます。まずは金額の大きいモール手数料・決済料・送料の3つを注文に紐づけるところから始め、続けられるようになってから広告費の配賦や付与ポイントの原資を加えると定着しやすくなります。粗くても、チャネルごとに同じ基準で限界利益を出し続けることで、チャネル間・期間間の比較が意味を持ちます。中小企業庁の固変分解の指針も、迷う費用は固定費に寄せて固めに計算する進め方を示しています。