ガイド

宿泊の損益分岐稼働率の出し方

ホテル・旅館の損益分岐稼働率を出す手順を、変動費・固定費の分離→客室1室あたり限界利益の算出→固定費÷1室限界利益で黒字ラインを計算するまで5ステップで解説。ADR・RevPARとの関係と計算例つき。2024年の客室稼働率は全体59.6%、旅館36.1%(観光庁)と業態差が大きい。

この記事の目次
  1. このガイドの狙い — 黒字になる稼働率を「計算する手順」
  2. 損益分岐稼働率を出す5ステップ
  3. ステップ1|コストを変動費と固定費に分ける
  4. ステップ2|客室1室あたりの限界利益を出す
  5. ステップ3|固定費を1室あたり限界利益で割り、必要販売室数を出す
  6. ステップ4|販売可能室数で割って損益分岐稼働率にする
  7. ステップ5|ADR・変動費・固定費を動かして感度を見る
  8. 損益分岐稼働率の計算式
  9. 計算例|30室のホテルの損益分岐稼働率
  10. ADR・RevPARとの関係|売上指標と黒字ラインをつなぐ
  11. つまずきやすいポイント
  12. Excel・手作業の限界と、その先
  13. AI管理会計ビルダーでの解き方
  14. よくある質問
  15. 関連リンク
  16. 出典
この記事の要点AI / AEO 最適化
  • Q1損益分岐稼働率は、固定費を「客室1室あたりの限界利益」で割って出す。先にコストを変動費と固定費に分けておくことが前提になる。
  • Q21室あたり限界利益は、客室単価(ADR)から1室売るたびに増える変動費(清掃・アメニティ・OTA手数料)を引いて出す。固定費はこの計算には入れない。
  • Q3損益分岐稼働率=固定費 ÷(1室あたり限界利益 × 販売可能室数)。これが、固定費を賄うのに必要な稼働率=黒字になるラインになる。
  • Q4ADRやRevPARは売上側の指標で、コスト側の固定費・変動費と並べて初めて黒字ラインが見える。RevPARが高くても固定費が重い施設は黒字にならないことがある。

このガイドの狙い — 黒字になる稼働率を「計算する手順」

宿泊・観光で黒字になる稼働率が見えなくなる理由や、見るべき採算単位の全体像は宿泊・観光の「黒字になる稼働率が見えない」を直すで整理しています。RevPAR・ADRの定義はRevPAR・ADRとはに、費用を変動費と固定費に分ける考え方は変動費・限界利益の出し方にまとめています。

このガイドは、その先の損益分岐稼働率を計算する手順だけに絞ります。コストを変動費と固定費に分け、客室1室あたりの限界利益を出し、固定費をそれで割って「何%の稼働で黒字になるか」を求めるまでを、計算例つきで具体化します。

観光庁の宿泊旅行統計調査によると、2024年の客室稼働率は全体で59.6%でしたが、旅館は36.1%、ビジネスホテルは73.7%、シティホテルは72.3%と業態差が非常に大きくなっています(いずれも確定値)。同じ稼働率でも固定費構造が違えば黒字ラインは変わるため、損益分岐稼働率は全社平均ではなく施設別に計算する必要があります。

出典観光庁「宿泊旅行統計調査」(2024年・年間値 確定値/2025年6月公表)

損益分岐稼働率を出す5ステップ

損益分岐稼働率は、次の順序で計算します。固定費を賄うのに必要な稼働を、1室あたりの限界利益から逆算するのがこの手順の核です。

ステップ1|コストを変動費と固定費に分ける

施設の費用を、客室を1室売るたびに増える変動費(清掃費・アメニティ・OTA手数料・消耗品・水道光熱の一部)と、稼働に関係なくかかる固定費(人件費・家賃・減価償却・保険・改装の償却)に分けます。迷う費用は固定費に寄せておくと、黒字ラインを固めに見積もる安全側の計算になります。中小企業庁の固変分解の基準が分け方の参考になります。

ステップ2|客室1室あたりの限界利益を出す

客室単価(ADR=客室売上÷販売室数)から、1室あたりの変動費を引きます。1室あたり限界利益=ADR − 1室あたり変動費。これが「客室を1室売るたびに、固定費の回収に回せる金額」です。固定費はこの計算には入れません。OTA経由と自社予約で手数料が違う場合は、チャネル別に変動費を分けて出すと精度が上がります。

ステップ3|固定費を1室あたり限界利益で割り、必要販売室数を出す

月(または年)の固定費を、ステップ2の1室あたり限界利益で割ります。必要販売室数=固定費 ÷ 1室あたり限界利益。これが、固定費をちょうど賄うのに売らなければならない延べ客室数(損益分岐点の販売室数)です。

ステップ4|販売可能室数で割って損益分岐稼働率にする

必要販売室数を、同じ期間の販売可能室数(客室数×営業日数)で割ると、損益分岐稼働率(%)になります。損益分岐稼働率=必要販売室数 ÷ 販売可能室数。これが、その施設が赤字にならないために必要な稼働率=黒字ラインです。実際の稼働率がこの値を上回っていれば黒字、下回れば赤字と判断できます。

ステップ5|ADR・変動費・固定費を動かして感度を見る

損益分岐稼働率は固定の数字ではありません。ADRを上げれば1室あたり限界利益が増えて損益分岐稼働率は下がり、OTA比率が上がって変動費が増えれば損益分岐稼働率は上がります。改装で減価償却(固定費)が増えれば必要稼働率も上がります。値づけ・チャネル構成・改装投資を変えたときに黒字ラインがどう動くかを、この式で試算します。

損益分岐稼働率の計算式

手順を式にまとめると、次のようになります。上から順に1つずつ計算すれば損益分岐稼働率が出ます。

項目 計算式
ADR(客室平均単価) 客室売上 ÷ 販売室数
1室あたり限界利益 ADR − 1室あたり変動費
必要販売室数 固定費 ÷ 1室あたり限界利益
販売可能室数 客室数 × 営業日数
損益分岐稼働率 必要販売室数 ÷ 販売可能室数

固定費が分子、1室あたり限界利益が分母にあるのがポイントです。固定費が重い施設や限界利益が薄い施設ほど、黒字に必要な稼働率は高くなります。

計算例|30室のホテルの損益分岐稼働率

考え方を具体化します。客室30室のホテルで、1か月(30日)を例にします。ADR(客室平均単価)は1万2,000円、1室あたりの変動費(清掃・アメニティ・OTA手数料など)は3,000円、月の固定費(人件費・家賃・減価償却ほか)は360万円とします。

項目 計算
ADR 12,000円
1室あたり変動費 3,000円
1室あたり限界利益 9,000円 12,000円 − 3,000円
月の固定費 360万円
必要販売室数 400室 360万円 ÷ 9,000円
販売可能室数(月) 900室 30室 × 30日
損益分岐稼働率 約44.4% 400室 ÷ 900室

この施設は、稼働率が約44.4%を超えれば黒字になります。仮にOTA比率が上がって1室あたり変動費が4,000円に増えると、1室あたり限界利益は8,000円に下がり、必要販売室数は450室、損益分岐稼働率は約50.0%に上がります。逆にADRを1万4,000円に引き上げれば限界利益は1万1,000円に増え、損益分岐稼働率は約36.4%まで下がります。黒字ラインは固定の数字ではなく、単価・変動費・固定費で動くことが、この試算で見えます(損益分岐点の考え方は損益分岐点とはを参照)。

ADR・RevPARとの関係|売上指標と黒字ラインをつなぐ

ADRやRevPARは売上側の指標で、損益分岐稼働率(コスト側の黒字ライン)と並べて初めて採算が読めます。関係を整理します。

  • RevPAR=ADR×稼働率。RevPARは「販売可能な1室あたりの売上」で、施設間の稼ぐ力を1指標で比べられます。ただしRevPARが高くても、固定費が重い施設では黒字にならないことがあります。
  • 黒字判定は「実際の稼働率 vs 損益分岐稼働率」で行う。RevPARや稼働率の高さだけでは黒字かどうかは分かりません。実際の稼働率が損益分岐稼働率を上回っているかで判断します。
  • 損益分岐点の売上=損益分岐稼働率×販売可能室数×ADRでも表せます。RevPARに引き直すと、固定費を賄える最低RevPARが分かり、施設横断で黒字ラインを比べられます。

RevPARやADRの定義と読み方はRevPAR・ADRとはに、限界利益そのものの計算は変動費・限界利益の出し方にまとめています。

つまずきやすいポイント

  • 固定費を1室あたり限界利益の計算に入れてしまう — 1室あたり限界利益はADRから変動費だけを引きます。固定費を混ぜると、固定費を二重に数えてしまい黒字ラインがずれます。
  • OTA手数料を変動費に入れ忘れる — OTA手数料は1室売るたびに発生する変動費です。入れ忘れると1室あたり限界利益が過大になり、損益分岐稼働率を低く見積もってしまいます。
  • 全社平均で損益分岐稼働率を出す — 施設ごとに固定費構造もADRも違います。施設別に計算しないと、赤字施設が黒字施設に隠れて見えなくなります。
  • 改装の減価償却を固定費に織り込まない — 大規模改装の償却費は固定費として重く効きます。織り込まないと改装後の黒字ラインを読み違えます。
  • 変動費・固定費の分け方を毎期変える — 分類基準が動くと期間比較ができません。一度決めたら継続し、コスト構造が大きく変わったときだけ見直します。

Excel・手作業の限界と、その先

損益分岐稼働率の試算は、最初はExcelで十分です。1室あたり限界利益も、固定費を割る計算も、Excelから始められます。ただし、毎月の費用を変動費・固定費に振り分け、施設別・チャネル別に1室あたり限界利益を出し、改装の減価償却まで配賦する作業を手で繰り返すと、属人化・更新遅延・履歴が追えないという弱点が出やすく、施設が増える段階で限界が出ます。とくに変動費・固定費の分け方や配賦の基準が担当者の頭の中にあると、その人が抜けた瞬間に再現できなくなります。順序は「棚卸しでコスト構造と採算単位を把握する→変動・固定の分離と配賦の基準を決める→その基準を崩さずに運用へ乗せる」です。

AI管理会計ビルダーでの解き方

AI管理会計ビルダーは、この「変動費・固定費の分離→1室あたり限界利益→損益分岐稼働率」という流れを、会社固有の形でつくります。業務棚卸しでコスト構造と施設・プランの採算単位を洗い出し、変動費・固定費の分け方と改装減価償却の配賦を施設の実態に合わせて設計したうえで、予約(自社・OTA)・客室原価・固定費を統合して、施設別の損益分岐稼働率を継続的に出せる仕組みをデータ基盤から構築します。宿泊管理ツールのテンプレートに会社を合わせるのではなく、会社の施設構造に合わせて黒字ラインを見える化します。

損益分岐稼働率は、変動費・固定費の分離と1室あたり限界利益の設計が土台です。無料診断で、自社の宿の「黒字ラインが見えない度合い」を可視化できます。

よくある質問

損益分岐稼働率は、まず何から計算し始めればよいですか?
コストを変動費と固定費に分けることから始めます。客室を1室売るたびに増える清掃費・アメニティ・OTA手数料・水道光熱の一部を変動費に、稼働に関係なくかかる人件費・家賃・減価償却・保険を固定費に分類します。次に、客室単価(ADR)から1室あたりの変動費を引いて1室あたりの限界利益を出し、月の固定費をその限界利益で割ると、固定費を賄うのに必要な販売室数が出ます。それを販売可能室数で割れば損益分岐稼働率です。最初から完璧に分けようとせず、金額の大きい費目(人件費・OTA手数料・減価償却)の分類から始めると続けやすくなります。
客室1室あたりの限界利益は、どう計算しますか?
1室あたり限界利益=ADR(客室1室あたりの平均単価)−1室あたりの変動費、で計算します。たとえばADRが1万2,000円で、1室売るたびに増える清掃費・アメニティ・OTA手数料・消耗品が合計3,000円なら、1室あたり限界利益は9,000円です。ここに人件費や減価償却などの固定費は入れません。固定費は稼働に関係なくかかるため、1室売るごとに増える分(変動費)だけを引くのがポイントです。OTA経由と自社予約では手数料が違うため、チャネル別に変動費率を分けて持つと、限界利益が実態に近づきます。
ADRやRevPARを見ているのに黒字ラインが分からないのはなぜですか?
ADR(平均客室単価)やRevPAR(販売可能客室1室あたり収益)は売上側の指標で、コスト側の固定費・変動費とつながって初めて利益になるからです。RevPARが高くても、固定費が重い施設や大規模改装の減価償却が乗る施設では黒字にならないことがあります。黒字ラインを出すには、ADRから変動費を引いた1室あたり限界利益と、施設ごとの固定費を置いて「このRevPARで固定費を賄えるか」を確認します。つまり売上指標と原価構造を同じ施設単位で並べることが前提です。RevPARの定義そのものは用語集にまとめています。
OTA(予約サイト)の手数料は、損益分岐稼働率の計算でどう扱いますか?
OTA手数料は、予約が入るたびに売上に連動して発生する変動費として扱います。1室あたりの限界利益を出すとき、ADRからこの手数料を差し引きます。自社予約とOTA経由では手元に残る金額が変わるため、チャネルごとに変動費率を分けて1室あたり限界利益を出すと、損益分岐稼働率もチャネル構成を反映した実態に近い値になります。OTA比率が高い施設ほど1室あたり限界利益が薄くなり、同じ固定費でも必要な稼働率(損益分岐稼働率)が上がる、という関係が見えてきます。
改装の減価償却は、損益分岐稼働率にどう効きますか?
改装・設備投資の減価償却は固定費として、損益分岐稼働率の分子(賄うべき固定費)に乗ります。固定費が増えれば、それを1室あたり限界利益で割って出る必要販売室数も増えるため、黒字になる稼働率(損益分岐稼働率)が上がります。大規模改装を計画するときは、増える減価償却を固定費に織り込んで損益分岐稼働率を再計算すると、「改装後に何%の稼働で投資を賄えるか」が事前に試算できます。どの施設・どの期間に償却を配賦するかで施設別の黒字ラインが変わるため、配賦の基準を決めて継続することが大切です。